個人事業主の離婚

個人事業主の離婚の場合、特に以下の点が問題になります。

  1. 婚姻費用(養育費)を算定する基礎となる収入額をどう計算するか
  2. 収入が増減した場合の婚姻費用(養育費)をどう算定するか
  3. 事業用資産も財産分与対象となるか
  4. 夫婦で事業を行っている場合の切り分けをどうするか

1.婚姻費用(養育費)を算定する基礎となる収入額をどう計算するか

給与所得者(会社員や公務員)の場合、婚姻費用や養育費を算定する基礎となる収入は、前年度の源泉徴収額が目安となるため比較的わかりやすいです。
他方、個人事業主の場合は、前年度の確定申告書(又は課税証明書)記載の所得額等が基準となりますが、節税のためにそもそも申告額が正しい所得を示していない場合も少なくありません。よくあるのが、所得を少なく申告するために経費を実際よりも多く申告していることです。そのため、申告上の経費額と実際の経費額が合致しているかを精査することになりますが、交渉ではなかなか資料が揃わず難しい場合があります。その場合は、調停や訴訟に移行して、相手方から必要な資料を開示させ、また各事項について釈明を求めて一つずつ明らかにしていく地道な作業を行うことになります。

2.収入が増減した場合の婚姻費用(養育費)をどう算定するか

個人事業主の場合、給与所得者のように安定した収入ではないため、年収が増減することが少なくありません(むしろそれが普通です)。誤解を恐れずに言えば、一時的に自らの意思で減収することも可能です。したがって、前年の年収だけではなく、例えばさかのぼって3期分の所得の平均値を、婚姻費用や養育費の算定の基礎となる収入としてみなすことも一案です。離婚時に養育費を決定する際、受け取る側としては高い養育費を合意できた方が望ましいのですが、ただ、あまりに高すぎる養育費額を設定してしまうと、元配偶者から、年収が下がった場合に養育費減額調停を申し立てられて養育費が大幅に減ってしまうこともありますので、やはり実際の経済状況に合った額にした方が長期的には良いかと思います。

3.事業用資産も財産分与対象となるか

個人事業主の財産分与の算定も論点となることが多いです。例えば、自宅兼事務所の場合、事業主が事務所として利用し続けることが想定されるため、当該不動産は個人事業主が取得した方が結局のところお互いの利益に叶います。
また、事業を継続させるためにはある程度の資金が必要ですが、個人事業主の場合、個人の財産と事業の財産が混在一体となっているため、事業に必要な財産についてはその価値を算定して、金額として財産分与に組み込む必要があります。ただ、評価額を算定する際には、購入価格ではなく現在の客観的な価格(処分価格)が基準となると考えられますので、什器備品その他動産類等はほぼ無価値として計算されることも多いでしょう。

4.夫婦で事業を行っている場合の切り分けをどうするか

夫婦で個人事業を営んでいる場合、離婚により当該事業が継続できない場合もあります。例えば、経営は夫が行い、現場の仕切りは妻が行っていた場合、どちらか一人でもかけてしまうとその事業はストップしてしまう危険があります。そうなると、別居した後は婚姻費用が、離婚した後子がいる場合は養育費の支払いが困難になる可能性があるため、事業の継続可能性をどのように確保するかが問題となります。
離婚後も共同事業を行う方もいますが、その場合は別途契約書等を交わして行う必要があるため、実際には難しい面があります。

この記事を書いた人 弁護士 大澤美穂子

2005 年 10 月弁護士登録(第二東京弁護士会所属)
クラース東京法律事務所代表弁護士
企業法務、一般民事、離婚などの家事事件、高齢者問題(成年後見、遺言、相続)など広く取り扱い、クライアントのニーズに合った最適な解決方法を目指している。

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